手術の前にはブラシで指先から肘までゴシゴシ丁寧に手洗いすることが基本とされています。おそらく現在、大学の外科実習で教えている方法も変わってはいないと思います。滅菌消毒の基本的な作法を身につけておくことは自分が開業した際に、手術での余計な感染を予防するために必要なことだと思います。もう5年前の2002年に発表された手指衛生ガイドラインというものには、今までの手術手洗いの概念を変えるような発表がされていました。それは【ラビング法】というもので、速乾性擦り込み式手指消毒剤を皮膚に擦り込んでいくというものです。もちろん手洗いの仕方にもある程度の規制がありますが、ブラシによる手洗いの欠点を解消し、それと同等あるいはそれ以上の殺菌効果を得ているというデーターも発表されています。これは人医療での話ですが、手術に際しての手洗いについては獣医療にも充分適応されることだと思います。今までの概念にとらわれず、良いと思われることはどんどん取り入れていくことはどんな医療の現場にも必要なことかもしれませんね。
サプリメント文化
人も動物の世界もサプリメントブームのようです。最近では食事代わりのようにサプリメントを飲んでいる人を見かけます。人は意識的にサプリメントを飲んでいるので、心理的にもなんか体調か良いような気がするという効果もあるのではないでしょうか。けれども何も判らずサプリメントを飲まされているペットはどうなのでしょう。もちろん飲ませていることで目に見えて効果があるものもあれば、飲ませていてもあまり代わり映えのしないものもあるでしょう。薬もそうなのですが効果が認められない場合、漫然と使用すべきではないとあります。そもそもサプリメントとは足りないものを補うためのものだと私は認識しております。しっかりとした食事を摂っていて足りないものを補うのならばいいのですが、何でもかんでもサプリメントというのはいかがなものかと思います。大切なペットに健康でいて欲しいという気持ちでサプリメントを与える気持ちはわかりますが、何よりバランスの良い食事をさせてあげることも大事だということを忘れないでください。
“〜たら〜れば”の話
骨折させてしまったり、異物を食べさせてしまい開腹することになったり、何らかの症状が出ているにもかかわらず様子を見すぎてしまったり・・・。何度かここでもお話ししていますが獣医医療は後手に回っており、ゼロからのスタートではなくマイナスからのスタートであることが多々あります。治療法によって症状が良くなるにも時間がかかることもありますし、症状によっては飼い主さんからの聴取を主体に行うため時によっては治療の優先順位が変わることだってあります。終わってみたときに“こちらの治療を先にしていれば”とか“他の先生に掛かっていれば”などの“〜たら〜れば”の話を耳にすることがあります。治療する立場の人間も、そして治療を任している立場の人間も、お互いに結果論でものを言うことは簡単です。その時の状態はその場に関わった者の判断に委ねられます。事が済んでからの【たられば話】はできる限りしたくないものです。そうならないためにも日頃の勉強や情報収集は大切だと痛感します。
麻酔薬の管理
獣医が麻酔薬として使用しているケタミンの取り扱いが麻薬扱いとなってもうすぐ1ヶ月になろうとしています。以前は麻酔処置といえば手軽に(?)使用していたケタミンも、1月からはどの患者さんにどれだけ使用したかということを帳簿とカルテに正確に記載しなければなりません。もちろん保管は据え付けられた金庫です。横浜に勤務しているとき、すでに麻薬の取り扱いについてはしっかり教え込まれていたので帳簿に付けたりすることは決して苦ではないのですが、やはり麻薬扱いとなってしまったケタミンは以前のように手軽なものでなくなってしまったことは事実です。父の知っている年配の先生もケタミンの絡みでもう手術はやらないとまで言っているようです。これからはどんな業種でもいろいろ規制されることが増えていくのだろうけれど、悪用されたことで規制されるようなことがないことを期待したいものです。
病気と仲良く
病気はしないに越したことはありませんが、先天的に持って生まれてしまったり、犬種特有の病気が出てしまうことがあります。外科的なもので手術をすれば治るものばかりではありません。何らかのお薬を飲み、ある程度の周期で診察を受けなくてはいけないものもあります。最近お問い合わせが多い【気管虚脱】も発症してしまうとお薬や病院とお付き合いをしなければならない病気のひとつです。【気管虚脱】の発生原因は明らかにはなっていませんが、気管を構成している軟骨の糖タンパクやプロテオグリカンが減少してその形状を維持できなくなった為、気管が虚脱(潰れて)しまうようです。診断方法はレントゲンで吸気時と呼気時の撮影を行い気管を比較する方法と、気管支鏡(内視鏡)にて気管を観察する方法が確定診断には有効です。さて飼い主の皆さんが一番気になる治療法〜予後判定ですが、【気管虚脱】という病気は完治ではなく症状の緩和を目的とした治療になることをご理解ください。気管支拡張剤や鎮咳薬、コルチコステロイドによる内科治療も症状を緩和することはできますが、虚脱してしまった気管自体を修復するものではありません。外科手術によって治療する方法も100%ではなく、術後に何らかのケアーが必要となる場合もあります。犬猫は治療さえすれば何でも治ると思われている方もいらっしゃるのですが、【気管虚脱】のように治しきることができない病気もあります。けれども病気と上手につきあうことで快適な日常生活を送ることはできます。動物医療にもこのような病気があることを知っていただければ幸いです。
ブルセラ症
何となく変な病名ですが、これは人畜共通伝染病といって動物から人に感染する注意しなければならない病気なんです。2〜3日前、インターネットの記事で目にしたのでどんな病気なのか、何を注意したらよいのか書いてみたいと思います。原因はBrucella canisという細菌で、犬の精巣や前立腺・子宮・膣を好んで感染します。ですから病気が判らず交配してしまうことで病気がどんどん広まってしまうわけです。一般的な症状は突発性流産〜死産・不妊症・精巣炎・精巣上体炎・椎間板脊椎炎や敗血症などがみられます。これが人に感染したときの症状は、間欠的な発熱と倦怠感がみられるようです。もしブルセラ症が疑われたら、排泄された死産胎児や分娩排泄物など直接手で触れないことが大切。また疑わしきものは直ちに動物病院にて血清学的な検査を受け診断を受けることをお勧めします。ブルセラ症は抗生物質の長期投与で治療することはできますが、完全に原因菌を除去することは難しいようで、不妊手術をすることが病気を広げない一番の方法のようです。多頭飼育されている方は良く注意されたほうがいい病気のひとつですね。
目から鱗が落ちた話
よくお昼の情報番組などで、塩分をとりすぎると“血圧が上がるからよくない”とか“腎臓に悪くする”といった話題の話をしています。獣医の世界でも何となくこの話がそのまま犬猫に適用され、“塩分を摂っていたから腎臓が悪くなった”と言われるようなことがあります。ところが最近目にした獣医学雑誌に【犬猫は塩分感受性ではない】という話が載っていました。これは国際腎臓関連学会に所属しているDr.の話なのですが、正常な犬猫は塩分感受性ではなく初期から中期の慢性腎疾患の犬猫とも塩分感受性ではなく、血圧を上昇させることもないということでした。他にも腎疾患のことについていろいろ書いてありましたが、獣医師の間にも裏付けもないのにまことしやかに話されている神話のようなものがあります。医学の進歩と共にこのような神話がどんどん解き明かされていくことって素晴らしいですね。
新年のごあいさつ
2007年、明けましておめでとうございます。今年も飼い主の皆さんのニーズに応えられるよう、様々な情報を取り入れフィードバックできるよう頑張っていこうと思っておりますので、よろしくお願いいたします。尚、新年は4日までお休みを頂いております。5日より通常通り診察をさせていただきます。
今年もあと少し
今年も残すところ今日を入れて2日となりました。12月の半ばまでに手術を行った患者さんの抜糸も昨日で済み、静かな年の瀬を迎えられそうです。今年も振り返ってみるといろいろなことがありました。病院として大きな買い物でもあり念願でもあったコンピューター処理できるレントゲン器機と新たな無影灯の導入により、やっと自分が思い描いていた病院設備に近づけることができました。設備も整い頑張っていた今年の後半、当院前院長でもある伯父の死は宇都宮に戻ってきて5年目の私にとって非常に残念な出来事でした。
公私ともにいろいろあった1年でしたが、病院として大きな事故や患者さんとのトラブルもなく過ごすことができたことが何より有り難いことです。患者さんが増えてくるとどうしても限られた時間内でコミュニケーションをとっていかなくてはなりません。コミュニケーション不足は飼い主さんの不安を招きトラブルへと発展してしまいます。そうならないよう来年も1件1件の患者さんとコミュニケーションをとっていけるような、そんなに忙しくならない病院を目指して頑張りたいと思います。皆さん怪我や事故の無いよう年末年始をお過ごしください。
薬が効かない・・・。
本日の新聞に“薬の効かない結核”の記事が掲載されていました。ここ数年、抗生物質が効かない病気(細菌)の話題が多くなったような感じがしませんか。病気になる→病院に行く→薬(抗生物質)をもらうという流れがあたりまえのようになっていますが、薬の中に必ずといってよいほど抗生物質が含まれている国は日本だけだそうです。ある製薬会社のデーターにも【世界で1番抗生物質を消費しているのは日本】というものがあるくらい、日本人は薬が大好きな国民のようです。確かに薬を処方されると安心したような気がします。けれども生き物の体には必ず治癒させる力が存在しています。そういった力を失わせつつあるのは抗生物質を必ずといってよいほど処方する現代医学のしわ寄せなのかもしれません。おそらく薬の効かない病気はペット医療の中にも増えていくことでしょう。そうならないためにも薬を処方する側の者として注意しなければならない事を考えさせられる記事でした。“とりあえず抗生物質を飲ませておけば・・・。”的なことは極力避けた方がよさそうですね。